
イラスト HIROKI MIDORIKAWA
20年ほど前に出会った『MRミスターハイファッション』という雑誌。“背広の愉楽”という表紙の言葉になんとなく惹かれ、 それを手にとりました。
当時ちょうど背伸びをしたい年頃だった私は、自分で買った2着目のスーツに袖を通し、その本に載っていたある人物に魅せられていました。
男性の名前は“古波蔵保好〈こばくら・やすよし〉”(1910-2001)。
新聞記者でありエッセイスト、評論家もされていた氏の写真はとてもダンディーで、背広とは、こういう人が着るためにあるのだろうと感じていました。
1972年には、第1回ベストドレッサー賞(学術・文化部門)を受賞していることもあり、その姿は各紙に取り上げられていました。
氏の著書に『男の衣裳箪笥』という書があり、その文中に戦の中で追いつめられたイギリス兵士が、死ぬ間際にボタンのはずれなどの身なりを正す。という内容が書いてあり、
《服装の乱れは心の乱れ、いさぎよく自分の運命と対決せんとするときの男は服装を厳正にするよう心がけたのであるが、逆に見れば、服装の厳正であることが、心理に作用して、いさぎよい行動を生むことにもなろう。そういったことから考えると、ナリフリは、心のありように影響するといえる。》と載っていて、
現在、毎日の生活で、通勤電車に乗るときに駆け込むなどの動作はもってのほかだなあとしみじみ考えてしまいました。
スーツにシャツにネクタイ。着ているだけではなく、所作や振る舞いも含めて男のダンディーさが雰囲気に現れるのではと思い、背筋を伸ばして、もう一度この本を読み直そうと思いました。